きらきらと輝く太陽の光が眩しい午前中。星を救った英雄、ティアに与えられた無人島では、彼女とひょんなことから蘇ったゼノスが、放牧地の前に立っていた。この島の放牧地には、彼女達が数日前に捕獲したシープやチョコボ達がいる。愛らしい見た目をした彼らをティアが世話していたが、彼女もずっとここにいるわけではないため、ゼノスにその飼育方法を教えるべくここまでやって来たのだった。
「ゼノス、私もずっとここで生活するわけにはいかないので、この子達のお世話の方法を教えたいと思います」
「世話……」
ゼノスはぽつりとつぶやいて、放牧地にいる動物に視線を向ける。黒と白のシープ、ふさふさの黄色い羽を持つチョコボ、鉱石を大事そうに抱えるスプリガン・アルバ。大きさも様々な生き物を見て、ガレマール帝国の一般的な家畜の飼育方法を思い浮かべた。
「家畜というのは、肥えさせて絞め殺すのだけではないのか」
さらっと恐ろしいことをいう彼に、ティアは両手を上下させて慌てる。
「な、何を言っているんですか! 食用の動物を育てる放牧地もエオルゼアにはありますが、ここにいる子達は食べません。シープだったらフリースや羊乳を取ったり、スプリガンだったら爪、チョコボだったら羽をもらうんです。無理矢理ではなく、伸びて余っている部分を」
『はわはわ』という単語が周囲に浮かんでいそうなくらい慌てているティアを見て、我が友は面白いなとゼノスは思う。もちろん、食用以外の飼育動物がいることを知っていたので、そっちの家畜か、とつぶやいた。
「ゼノスの場合、絞め殺すなんて朝飯前のようにやりそうだったのでびっくりしました……で、そうそう、この子達のお世話の仕方。ちゃんと愛情込めないと、良いものを提供してくれないので、気を付けてくださいね」
「ああ、わかった」
素直に頷くゼノスを見て、ティアは少しホッとする。ただ強き相手を求め、壊すことしか出来なかった彼が生き物を愛することなんてできるのだろうかと少し不安だったからだ。動物を大事しなければいけない、という思いは伝わったと理解して、飼育方法の伝授を始めた。
「まず、シープさんの飼育方法です。シープさんはこのふわふわの毛からフリースが取れるので、一日二回、ブラッシングが必要です。優しく優しく、そっとやってあげてください」
がさごそと鞄からブラシを取り出して、丁寧にブラッシングする。シープは気持ち良さそうに目を細め、安心しきっていた。
「大切なものに触れるように、そーっとです。ゼノスもやってみてください」
ティアはそう言ってブラシを渡す。受け取ったゼノスは、シープに標的を定めて近付いた……が、白いシープは見えない何かに恐れをなして、離れてしまった。
「あっ……」
「友よ、近付くことすら出来なかったが、どうすれば良い?」
「た、たぶん、シープはちょっと臆病なので、ゼノスのように大きな人に恐怖を感じてしまったのかもしれません。対処方法はあとで考えるとして、次にチョコボの餌やりをしてみましょう」
駄目なら次だと考えたティアは、第二にチョコボの餌やりを提案する。彼女の提案通りに動くのが一番だと思ったゼノスは、頷いた。
お腹が空いているのか、草を啄んでいるチョコボに二人で近付く。先程のようにティアが鞄から餌を取り出し、チョコボに与えた。彼は嬉しそうに木の実を食し、もっと欲しいという目でティアを見る。
「おかわりが欲しいみたいです。今度はゼノスが与えてみてください」
渡された木の実を手にして、チョコボとの距離を縮める。チョコボは恐れることなく、ゼノスを見つめた。木の実を握っている手をくちばしの前に出し、開く。するとチョコボはすぐさま啄み、きらきらとした瞳でゼノスに視線を向けた。
「友よ、出来たぞ」
「わぁ! 良かった……チョコボへの餌やりは大丈夫ですね」
ティアは安堵の表情で拍手する。彼女に褒められたことを嬉しく思っていると、チョコボがゼノスの脇腹に頭を擦り付けた。
「なんだ……?」
「もっと餌が欲しくて甘えているんだと思います。もう一度与えてみてくれませんか?」
彼女の提案に、ゼノスは少々面倒だと思ったが同意する。自分に懐きかけているチョコボに興味を抱き始めたからだ。
餌を受け取り、再度与える。チョコボは木の実を食べて、嬉しそうにゼノスを見た。
「くえっ!」
「ふふ、なんだかよく分かりませんが、この子はゼノスのことが気に入ったみたいですね。髪の色のが同じだからでしょうか」
「……そのような単純明快な理由ではないと思うが、懐かれているのは事実のようだ。そうか、これが生き物を愛でるということか……」
感慨深げにゼノスは言う。ティアは微笑み、彼を見た。
「生き物をお世話する喜びが伝わって嬉しいです。少しずつ慣れていけば、他の動物ともチョコボのように仲良くなれると思います」
「ああ。お前ばかりに任せるのも良くないからな……しかし、謎が深まったことがある」
彼は少し難しい顔をして、疑問があると宣言する。一体なんの謎が深まったのだろうかと、ティアは尋ねた。
「謎? なんですか?」
「人の愛情には種類があるのだな。生き物を愛でる時の愛情、そして、友、お前のように好いた相手を愛おしいと思う時の愛情……同じ愛情であるのに同じものではない。実に難しい。生き物は先程のように要望に応え、甘えさせればいいが、好いた相手には何をすればいいのか……」
唐突に自分のこと、恋愛のことを口にされ、ティアは頬を赤らめる。自分もよく知らないことを聞かれても困ると思い、回答に迷った。
あたふたしていると、急にゼノスがティアを抱き締める。混乱に混乱が追加され、彼女はふわぁっ!とよく分からない声を上げてしまった。驚くティアに構わず、彼は彼女の頭を撫でる。数度手を滑らせてから、どうだ?と尋ねた。
「え……?」
ティアが顔を上げると、ゼノスは少し困ったような顔をしていた。思い浮かんだ行動を取ってみたが、これでいいのかよく分からないのだろう。
「好いた相手にする行動として、頭を撫でる行為は正解なのだろうか」
「えっと……えっと、そう、ですね……ゼノスに頭を撫でられることは、嬉しいです。でも急だとびっくりするので、今度からは私を褒めたい時とか、甘えさせたい時にしてくれませんか……?」
内容としては恐らく間違っていないことを伝え、タイミングに気を付けるよう指摘する。ティアの言葉にゼノスは頷き、恋人への愛情表現というのは難しいものだな、と感想を零した。
「私も、恋愛のことはわからないことが多いので……一緒に勉強していきましょう」
上手くいかないことにどこか悲しそうな雰囲気であった彼に、ティアは優しさを添える。ゼノスは同意して、道を示してくれた彼女を褒めるように髪を撫ぜた。