Vi et animo

もしもヒカセンとゼノスが無人島のんびり生活したら

 籠に入った色とりどりの野菜たち。どれも新鮮で瑞々しい採れたてのものだ。わたしは満足気に頷き、もう一つの区画で果物を回収している恋人のもとに向かった。
「ねぇ、ゼノス。そっちはどう?」
 ミコッテ族のわたしより大きな体躯に似合わぬ繊細な指使いでロランベリーを摘み取り、籠に入れているゼノスは動きを止め、振り返る。
「たくさん取れたぞ。お前が言うように、お前の体に触れるように丁寧に扱ってやった」
「そ、それはいちいち言わなくていいから……」
 剣を振るい、戦うことしか頭になかった彼にこの島での生活を教えるのは非常に困難なことだった。常識はあれど、力加減が分かっていない。野菜や果物を収穫しようにも潰してしまうので、例えとして自分を出した。恋人に振れるように優しくしてあげて、と。そうしたら上手く収穫出来るようになったのだから、ある意味この人はものすごく純粋なのかもしれない。
 ゼノスの言葉に恥ずかしがっていると、彼はくすくすと笑い、わたしの名前を呼ぶ。目線を向ければ、彼の指が口の中に挿入された。
「ふえっ!?」
 いきなりのことに驚く。しかし、すぐに行動の理由を理解した。
「ん……」
 口内に、甘酸っぱいロランベリーの味が広がる。どうやら、一つ食べさせてくれたようだ。わたしに対してだけ変に優しいんだから……。
 命の取り合いよりも共に命を繋ぐことを選んでくれた皇太子様の愛情表現に微笑ましくなる。ロランベリーがなくなったので口を離せば、どうだ?と問われた。
「美味しいね。あとでそのまま食べる用とジャムにする用とジュースにする用に分けないと」
「どれも甘い物ばかりだな」
 わたしの言葉にゼノスは眉を顰める。一緒に暮らし始めて知ったけれど、あまり甘味が得意ではないようだ。わたしが甘い物を食べていると、よくそんなものが食べられるなという表情をする。
「ロランベリーは直接食べる以外、甘い物に加工されるのが主だから仕方ないわ」
「俺は砂糖が含まれた甘さより、こっちの方が好きなのだがな」
 そう言って、ゼノスはわたしにキスをする。舌を捩じ込まれ、先程までロランベリーが存在していた口内を支配された。
「んっ、んん……」
 痺れるような甘さが体を駆け巡る。わたしは空いている手でゼノスの服を掴んで、これ以上はやめてと訴えた。ゼノスの口付けは蕩けるように甘くて、刺激的で、気持ちを艶めいたものにしてしまうから……。まだお日様が出てるし仕事の途中だし……。
 けれども彼はわたしの気持ちを無視して、口内を味わう。ドキドキしてしまうくらい深いキスをされて、ちゅっと音を立てて開放された。
「ゼノスのばか……」
「くくっ。お前が愛らしいのがいけない」
 ゼノスは口元に意地悪な笑みを浮かべる。この表情をしている時は、覚悟しなければいけない時だ。わたしは気持ちを固め、せめて野菜と果物を保冷庫にしまってからにしてほしい、と伝えた。
「それを終えたら好きにして構わぬと?」
「……まだ昼間だからお手柔らかにね?」
「お前次第だな」
 彼はそう言って、先に家の中に戻っていく。これはなかなか終わらないだろうなと溜め息を吐きつつも、ゼノスに愛されていることに喜びを隠せない自分をわたしは感じていた。