どうしてこうなったのだろう、とわたしは記憶を巡る。思い出されるのは、昨日恋人とともに眠りについた瞬間。腕に抱かれ、夢の中に落ちたところまでは覚えている。なのに何故、わたしは見えない壁に閉じ込められ、吸血鬼の牙と欲望を持つ恋人に囚われているのか……。
疑問に思いつつ、わたしを抱き締めている彼に問うた。
「ゼノス……? これはどういうこと……?」
不安からか、声がか細くなる。ゼノスは不敵に微笑み、耳に口付けた。
「お前がその目で見ていることが事実だ。俺はヴァンパイアの王であり、お前の血を欲している」
信じ難い言葉を呟いた唇は、すーっと下に下がり、首筋に触れる。小さく開いた唇から赤い舌が現れて、肌を舐めた。
「んっ……!」
「っ……お前の肌は甘いな。吸血の欲求を刺激する」
「ほんとに、吸うの……?」
恐怖を感じたわたしは彼に尋ねた。ゼノスは頷き、怖いのか?と質問を返す。
「うん……血を吸われたら、死んじゃうんじゃないかって……」
「くくっ。蛮族の英雄たるお前が恐れを抱くとはな……まあ、中には痛みに耐えかねて死ぬ者もいるが、お前ならば問題ないはすだ」
そう言って再度首筋に舌を這わせる。何を根拠にそんなこと言ってるんだと思って不服の表情を見せると、彼は愉快そうに笑った。
「ヒナナ……お前は俺が好きだろう??それが理由だ」
「えっ……? て、あっ……!」
戸惑うわたしの肌に、ゼノスは牙を立てる。白く尖ったそれは、ぷつりと音を立てて肌に食い込み、鋭く熱い痛みをもたらした。
「ぁっ……ああっ……!」
痛くて涙が出る。牙を差し込んだまま、ゼノスはじゅるっと音を立てて血を吸った。
「っ……!」
ごくり、と喉が鳴る。わたしは強い痛みに言葉にならない声しか出ない。涙をこぼすわたしに構わず、ゼノスは吸血を続けた。傷口から広がる痛みは次第に熱を持ち、先程とは違う感覚が生まれ始める。それに対してわたしは戸惑いながらも、艶めいた声を出してしまった。
「っん……あっ……」
その声を聞いて、ゼノスは牙を抜く。口端から血を零しつつ、嘲笑を浮かべた。
「感じてきたな……やはり、好いた者に吸われると快感に変わるのか」
「えっ……どういうこと?」
「言葉のままだ。ヴァンパイアを愛する者がヴァンパイアに吸血されると、痛みは快感となり、吸血された者は虜となる……お前はもう、俺から離れられぬぞ?」
くくくっ、と低く笑い、彼はまた別の場所を噛む。二回目の吸血は、痛みよりも快楽の方が少し強くて、わたしは甘く啼いた。
「っあ……んんっ……」
吸血されることに快感を覚えるなんて、ふしだらでいけないと思いつつも、体は抑制することなく感じて声を発する。彼の牙によって与えられる快感は、わたしの体を少しずつ熱くさせ、また別のことを求め始めていた。
「っちゅ……気持ちがいいようだな……腰が揺れているぞ?」
ゼノスは加虐的に微笑み、わたしの腰から臀部に掛けて手を這わせる。突然の刺激にわたしは声を漏らし、濡れた瞳で彼を見つめた。
「あぁっ……! やだっ、ゼノス……」
「もっと激しいのが欲しいのだろう? お前は相変わらず淫乱だな」
「ちがっ……ぁっ、んん……」
大きな手は臀部を撫で、そのまま太ももを這って下着の上からその場所に触れる。湿り気を帯びたそこを撫でて、彼は確信の笑みを浮かべた。
「違わないな。ここを濡らしておいてもう否定は出来まい」
「やだっ……あ、だめっ……」
「共に深き闇へ堕ちようではないか…なぁ、友よ?」
ゼノスはそう言って、胸元に牙を刺す。痛みと快楽の波に襲われて、わたしは抵抗さえも出来ずに飲み込まれていった。