Vi et animo

闇の戦士とお酒の秘密

 闇と平和を取り戻したノルヴラント。その中で一際目立つクリスタルタワーを構えるクリスタリウムの酒場『彷徨う階段亭』で、ジオットはいつものように麦酒を煽り、満足気な表情をした。
「んぐっ、んぐっ、ぷはぁ~~」
 それを見て、隣に座っていたヒナナはにっこりと微笑む。
「相変わらず良い飲みっぷりね」
「ワシはいつでも気持ち良い飲みっぷりじゃぞ。酒と旅を愛しているからな」
 ふふん、と自慢気にジオットは話す。ヒナナは彼女を素敵だと褒め、爽やかなオレンジのジュースを口にした。
「おぬしは酒が苦手なんだったっけか」
「うん、飲めなくはないんだけど、すぐに酔いが回っちゃって……」
「それで大きな失敗があると」
「へっ!?」
 目を細めて追及しようとする彼女に対し、ヒナナは耳と尻尾をぴこぴこ動かす。それを見て、ジオットや一緒にいたルーやテイナーはくすりと笑った。
「図星ってやつか?」
「いえ、そのっ……」
「どうやら当たりみたいですね」
「う、うう……」
 ぱたぱた動いていた耳と尻尾はしゅん、と萎れた。まるでヒナナの感情をそのまま表しているようだ。元気をなくしていたそれらは、ジオットのある一言により、再び慌ただしくなった。
「これで噂の辻褄があったぞ。その時お主を介抱したのがあの水晶公じゃな?」
「はうっ……!」
 感情と連動している彼女の耳と尻尾は動き出す。ジオットは悪い笑みを浮かべ、テイナーはなるほど、と理解したようにつぶやいた。ただ一人、ルーだけが二人が辿り着いた答えに至っていなかった。
「酒に酔って倒れた闇の戦士を率先して介抱し、お主の部屋まで運んだ水晶公が手馴れていた、という話とお主と奴が恋愛関係にあったという噂……どちらも事実ということじゃな」
「は、はい……」
 言われたヒナナは頬を真っ赤にして認める。それを聞いてルーは、目を大きく見開いた。
「え!? まじ!? あんたと水晶公ってそういう関係だったのか?」
 恥ずかしさでいっぱいのヒナナは、ただ頷くことしか出来ない。寧ろ他の二人が、ルーの反応に対して驚いていた。
「お主、噂を知らなかったのか……?」
「噂云々の前に、あそこまで街中で仲良さそうにしてる二人を見たら、同郷だってこと以外に何か察するよね……?」
「全然知らないし分からなかった……」
「若造、お主鈍感じゃな」
 少し呆れた様子でジオットはつぶやく。コルシア島の方にいる時間が長かったのだから仕方ないとルーは言い返した。そんなやり取りの間もヒナナは熱い頬に手を添えて、恥ずかしさをやり過ごそうとしていた。
 水晶公と恋仲であり、ここでお酒を頂いた時に気を抜いて飲み過ぎて倒れてしまい、介抱されたのは事実だ。彼の魂と記憶を受け継いだグ・ラハとあちらの世界で関係が続いていて、特に隠さなければいけないとか羞恥を抱く必要はないのに、純粋なヒナナは胸をドキドキさせていた。
「さて、確証を得られたことだし、今夜はヒナナの恋バナを肴に飲むかのう」
 いや、もうさっきから飲んでるじゃないですか……とテイナーは心の中で思ったが口にはしなかった。彼もルーも、あの謎めいた水晶公とどのような恋愛を繰り広げたのか気になっていたからだ。もっと知りたいという三人の空気を感じ、羞恥の中にいたヒナナは諦める。これはもう質問すべてに答えるしかない。今日の夜は長くなりそうだと思いながら、オレンジのジュースで口を潤した。