石の家でタタルさんが作ってくれたパインジュースを飲みながら、トームストーンでリテイナーさんに預けた荷物の情報を見ていると、ジュースの入ったグラスに刺さったストローにラハが視線を向けた。怪訝そうな顔をして、次に俺を見る。
「あんた、ストローめちゃくちゃ噛むんだな」
「えっ……? あ、全然気にしてなかったけど……そうだね、つい噛んじゃう」
グラスのストローは俺の歯で噛まれて円筒状ではなくなっている。噛み癖があることは昔から認知していたけれど、それを指摘されたのはラハが初めてだ。俺の癖について何か言う人なんて、今までいなかったから。
小さく笑って彼の指摘を認めると、ラハは急に頬を赤くして、そっぽを向いた。
「だからあんたはいつも……そういうことだったんだな……」
「え? えぇっ? どういうこと? なんで恥ずかしがってんの?」
真意の読めない恋人の行動に、戸惑わずにはいられない。何か不躾なことをしてしまったんだろうかとそわそわしていると、ラハは視線を反らしたまま、訳を話してくれた。
「……知らないのか? ストローを噛むってことは、欲求不満の表れだって」
「へっ……?」
「ついそうしてしまうってことは、アオイは欲求不満であることが多いってことだろ?」
「あっ……」
ラハの言葉を聞いてからストローの現状を見て、どうして彼が羞恥に耐えているのか理解する。要は、噛み癖がある=常に欲求不満だと思ったのだ。まあ、八割くらい間違ってないんだけど。可愛らしい反応の恋人を見て、クスリと笑みを零し、俺は頬をつついた。
「俺がすぐラハとシたがるのは、欲求不満ってだけじゃないよ。ラハがこういう風に可愛くて愛おしいから、抱きしめて好きだよって伝えたくなるんだ」
「あ、あんたはそうやって場所を選ばず恥ずかしいことをよく言えるな!?」
先程より頬の赤を濃くして、ラハは俺を見て文句を言う。耳と尻尾をぴーんと立てて怒りを露わにする彼は可愛くて、余計からかいたくなってしまった。
「ラハが可愛いのがいけない……」
「なんで俺のせいなんだよっ」
ラハはそう言って俺の頬を摘む。ぐにぐにと引っ張られて、弄ばれた。
「ひょーゆーひょころがちゅぼなんひゃっひぇー(そういうところがツボなんだってー)」
「う、うるせぇ! 恥ずかしいんだよこっちは!」
愛をフルオープンで表現する俺に対して、ラハはぎゃーぎゃーと反発する。
そんな俺達に、通りかかったタタルさんが叫んだ。
「もう! 痴話喧嘩は外でやってくださっい! ここは健全な公共の場でっす!」
見れば、彼女はぷぅっと頬を膨らませ、腰に手を当てて怒っていた。可愛らしい怒り方だが、この受付嬢を敵に回してはいけない。早々に従わないと何をされるか分からない。それはラハも理解しているようで、俺の頬から手を離した。
「……悪い。つい熱くなっちまった」
「いや、俺も調子乗ってからかってごめんね。ただ、これだけは言わせて。ラハのことは、欲求の捌け口にしてるわけじゃないから。きちんと大好きだって思ってるからね」
不安を滲ませた表情で、俺は気持ちを伝えた。ラハは一瞬目を見開いて、ぷっと吹き出した。
「あんな調子良く俺のことからかってたくせに、そんな捨てられそうな子猫みたいな顔するなんて……あんた、ズルいよ」
「俺は別に子猫みたいな顔してないけど……」
「してるってーの。ほら、有能な事務員さんのご機嫌損ねちまうから行くぞ」
ラハはそう言って俺の手を引く。どこに向かうのだろうと期待しながら、俺はその手を優しく握った。もう決して、離したりしないと思いながら。