その日、アオイは意気揚々と水晶公がいる星見の間を訪れた。にこにこと幼げな笑みを浮かべて、魔器の前に立つ彼に声を掛ける。
「こんにちは、ラハ!」
きらきらと輝くような笑顔のアオイを見て、水晶公は嬉しくなって同じように微笑んだ。大好きな人の笑顔は、恋人を幸せにする。
「やあ、アオイ。いつにも増して元気いっぱいのようだが、何か良いことでもあったのかい?」
普段も明るい彼だが、ここまで活気に満ち溢れているということは何かあったに違いない。水晶公はそう思って尋ねたが、返ってきた答えに耳を疑った。
「いやー、今日って2月22日、猫の日じゃん? にゃんにゃんにゃんの日じゃん? だからさ、にゃんにゃんしよ?」
「は?」
時々、アオイはINTの低いことを口にする節があったが、今日はそれが酷いらしい。水晶公は聞こえてきた台詞を理解しきれず、ぽかんと口を開けた。
「あ、意味が通じなかった? にゃんにゃんにゃんの日だからエッチしよっていう」
「あんたは馬鹿なのか!?」
噛み砕いて伝えてきたアオイに対し、思わず、グ・ラハ・ティアとしての性分が出てしまう。眉間に皺を寄せ、睨みを効かせると、アオイは一歩引いた。
「え、そんな怒鳴ることなくない?」
「これが怒鳴らずにいられるか! 爽やかな真昼間から卑猥なことを言い出して! 誰がやるか!」
水晶公は怒りをぶつけ、腕組みをしてふんっと顔を逸らす。彼を随分と怒らせてしまったことに気付いたアオイは、水色の耳をへなっと下がらせ、ごめん……と呟いた。
「特別な日だから、ちょっと調子乗っても大丈夫かな~って思ったけどだめだったね……」
幼い子どものように落ち込むアオイをちらっと見て、水晶公は少し申し訳ない気持ちになる。叱りすぎただろうか、と思って、気分が急降下しているアオイの肩に触れた。
「少々言い過ぎたな……すまない。けれども、その……時間を考えて欲しいんだ。闇の帳が落ちて、雰囲気が出てきてから……その、誘って欲しい」
湧き上がる恥ずかしさと戦いながら、水晶公は気持ちを伝える。すごく怒られたけれど、嫌われてはいないと理解したアオイは、耳をぴんっと立てて、水晶公に抱き着いた。
「へへっ、やっぱり君は優しいな~。じゃあ、また今夜誘いに来るね!」
本当に子どものようにすぐ立ち直った彼を見て、水晶公は内心溜め息を吐く。調子の良い恋人だ……けれども、そんな彼が可愛らしくて愛おしい。心に芽生える慈愛の情を感じながら、アオイを抱き返す。
「ああ、待っているよ。きっと、とびきり甘えん坊な私が待っているはずだから……」
そう言って、水晶公はアオイに柔らかな口付けを与える。いつも主導権を握っている側の自分が先導され、アオイはどきりとした。体が熱くなる。けれども、夜まで待たなきゃと思い、なんとか自制した。
「あっ……はい、楽しみにしてます」
思わず敬語になってしまったアオイを、面白そうに水晶公は見つめる。アオイは仕返しに彼の手を取り、手首にちゅっと跡を残す。ちょうど、衣服で見えそうで見えない部分で、アオイはしてやったりという顔をした。
「なっ……あなたって人は!」
「寂しくなったらそれ見て俺の事思い出してね、それじゃあまた!」
彼は焦りと怒りを見せる水晶公にそう言って、星見の間を去っていった。残された水晶公は、手首に残された赤い華を見て、少し嬉しそうに微笑んだ。