おはよう―――その言葉が、あの日から特別なものになった。あなたが世界に闇を取り戻した日。私を助けてくれた日。安堵した笑顔であなたは言葉を掛けてくれた。
「おはよう。グ・ラハ・ティア」
あの瞬間、胸に溢れた感動は、長い時の中で枯れていたはずの涙を思い出させた。私の両目からは雫が溢れ、ぽろぽろと頬を伝う。心が熱くなり、封じていた感情が表に出た。
「ああ、おはよう」
その時から、『おはよう』という言葉は宝物で、朝一番にあなたが眠る部屋を訪れ、伝えることが日々の楽しみになった。
おはよう、と声を掛ければ、あなたは少し眠そうな顔で挨拶を返す。今日もあなたは生きている。私もここで生きている。それが嬉しくて、つい頬が緩む。
「今日はどこかへ出掛けるのかい?」
挨拶をして、予定を聞いて、他愛のない話をして。それが日課になっていた。
「うん。今日はイル・メグに行ってピクシー族の手伝いをね。夕方には戻るよ」
「そうか。フェオによろしく伝えておいてくれ」
ノルヴラントを離れない近場の予定であることに安堵しながら、私は旧友への言伝を依頼する。あなたは承知しながら、優しい表情で私に言った。
「イル・メグならそう遠くないだろ? 水晶公も一緒に行こう?」
「えっ……」
まさかあなたから誘われるなんて思っても見なかったから、私は驚いてしまう。一瞬、聞き間違いかと思ったが、記憶の中のあなたは確かに同行することを願っていた。
「いいのかい? もしかしたら体調を崩して足手まといになるかもしれない……」
誘われたことは嬉しかったが、不安が強く心にのしかかっていた。クリスタリウムからはそう遠くないが、もしものこともある。大好きな人に、負担を掛けたくない。
けれどもあなたは表情を変えずに、
「大丈夫だよ。フェオもいるし、人に親切なピクシー族も知ってるし。それにもしもの時は、俺が守るから」
と、戸惑う私の背中を押した。あなたの優しさに、私の心は喜びを感じる。嬉しくて、尻尾がぱたぱたと動いてしまった。
「……それなら、大丈夫だな。あなたの旅に同行させてもらうよ」
「よっしゃ」
私が頷くと、あなたも嬉々として手を上げた。子どものような愛らしい行動に、私の心は温かくなる。
一体どんなことが待っているのだろうと期待を寄せながら、私はあなたに笑いかけた。
「よろしくな、闇の戦士殿」