その日、いつものように英雄の帰りを待っていると、嬉々とした様子で彼は帰って来た。いつも以上にご機嫌な彼を見て、水晶公も嬉しくなる。きっと原初世界で良いことがあったのだろう。何があったか知りたいと思っていると、彼は水晶公をぎゅっと抱き締めた。
「たっだいまー!」
ミコッテ族特有の耳と尻尾をぴょんぴょんさせながら、彼は愛を表現する。水晶公は嬉しいと思いながらも、これを誰かに見られたら困る…とも感じていた。自分の恋愛について、とやかく言う人物はこの街にはいないだろう。しかし、街の者に知られてしまうのはどこか恥ずかしい思いがあった。
「あまり……その、皆が来るかもしれない場所ではその………」
「駄目なの? 別にいいじゃん、見られてもさぁ」
彼は口をすぼめて拗ねる。まるで子供のようだ。
水晶公はそんな彼を可愛いと思い、こうしてイチャつく行為を許してしまのだった。
「まぁ……少しなら、良いが……」
「本当!? やった! 実はさ……」
彼は笑顔に戻り、がさがさと道具袋から何かを取り出す。出てきたのは、『pucky』と書かれた赤い紙の箱だった。
「これは……?」
水晶公は怪訝そうにそれを見つめる。彼はニコニコしながら説明をした。彼曰く、これはチョコレートでコーティングされた細長い菓子らしい。原初世界の若い男女の間で最近人気なんだそうだ。
「でさ、このプッキーを使ったゲームがあるんだけど……やってみない?」
「ゲーム? どんなゲームなんだい?」
興味を示した水晶公に、彼はニヤリと不敵な笑みを見せる。水晶公はそれを見て、危機を感じた。
「まさか、やらしいことはしないよな?」
「うーん、水晶公次第かなぁ」
彼はニヤついたまま、真意を隠す。不安な水晶公に対し、彼はゲームの内容を話す。結果を聞いて、水晶公は顔を真っ赤にした。
「き、キスする気満々じゃないか!」
「そうりゃぁねぇ。俺は水晶公のこと、大好きだし」
あわあわする水晶公とは対照的に、冷静な彼は思いを述べる。自分に素直な彼に負け、水晶公は、うぅ……と唸りながら、頷いた。
「分かった。やろう」
「へへっ、そう来なくっちゃ!」
うきうきした様子で、彼は箱から菓子を一本取り出し、チョコレートの付いていない部分を咥える。おいで、と言うような目で彼は水晶公を見つめた。
水晶公は胸の高鳴りを感じながら、チョコレートの付いている部分を咥えた。少しずつ、少しずつ、二人は近付いていく。水晶公の気持ちは彼との距離が近づく度に膨らみ、爆発しそうになる。ああ、彼に触れてしまう、唇が触れてしまう。暴走しそうな気持ちを抑えながら、菓子を食べ進めた。
そして。
「ん……」
互いの唇が触れ合う。熱が伝わり合い、喜びが溢れた。
菓子を飲み込んだ彼は、水晶公を見つめる。その瞳には、色気が宿っていた。
「水晶公……もっと、イイ?」
彼の言葉に、水晶公は頷く。
それを合図に、二人の唇は再度重なる。二度目の口付けは、より長いものとなった。