Vi et animo

雪の国で恋の華を咲かせて

 いつからだろう。あいつのことを女として見始めたのは。一緒に旅をしたあの時はそういう風には見ていなかった。俺を呪いから解放してくれた時もそんな風に思ってなかった。その後から……いつの間にか、冒険者として、英雄として、輝くあいつが脳裏に焼き付いて離れなかった。あいつの持つ輝きに、知らぬ間にやられてしまっていたらしい。普段は淑やかそうな顔をしてくせに、戦いになると凛とした顔になって楽しそうに槍を振るう。風に靡く、桃色の髪と尻尾が愛らしくて可愛いと思ってしまう。初めはただ、良いかもなと軽く考えていただけなのに、だんだんとその想いは俺の中で育ってしまった。そのせいで、欲が溜まって抜く時にあいつのことを……ああ、なんでもない! 今のは聞かなかったことにしろ。
 とにかく、俺は同じ竜騎士の相棒であるヒナナに、恋慕を抱いていた。そして……ごちゃごちゃ考えるのが不得意なので、ちょうど良くイシュガルドで再会したあいつを、渡したい物があるからと宿屋に連れ込み、押し倒した。
「エス、ティニアン……?」
 不安、驚き、恐れ。それらが入り交じった表情でヒナナは俺を見つめる。何故こんなことをするのかと、問われているようだった。俺はどう伝えればいいか分からず、欲望のままに行動する。耳を甘噛みして、いじめるように舐めた。
「っや……あ、エスティニアンっ……!」
 普段、聞いたことのないような、あいつの甘さを含んだ声が耳に届く。それは俺の欲望を刺激して、行動を加速させる糧となる。舌を動かして舐めまわしていると、ヒナナは抵抗するように俺を押し返そうとした。いくらあいつも戦い慣れてる冒険者とは言え、力は俺の方が上だった。抵抗を抵抗で返すと、今度は『やめて』『嫌だ』と言葉で反抗する。普段の俺ならセーブ出来たかもしれないが、好いてる女の甘い声に酔い、欲望を優先している俺には無理だった。その声すらも、楽しみになってしまう。
「だめ……やめて……」
「本当に嫌なら、あんな甘ったるい声出さないと思うがな……感じてんだろ?」
「違うっ……あっ!」
 ヒナナの言葉を最後まで聞かずに、俺は無理矢理服を肌蹴させる。偶然か必然か、脱がしやすそうな服を着ていたので、するすると上半身を下着姿にすることが出来た。羞恥から、あいつは胸を隠そうとする。俺はそれを防いで、ヒナナの手をシーツに押し付けた。
「あっ……」
「欲望に抗うなよ。俺が気持ち良くしてやるから」
「やだっ……エスティニアン……わたし、初めて、なのに……」
 瞳を涙で潤ませて、あいつは訴える。初めてという言葉は俺を驚かせ、躊躇わせた。
「マジかよ……お前みたいな人気者なら、良い男の一人や二人いそうなのに」
「れ、恋愛に興味なかったから……」
「ふぅん……じゃあ、俺が男を教えてやるよ」
 躊躇いはしたものの、欲望は止まらない。口元に我ながら悪い笑みを浮かべて、下着の上から胸の膨らみに触れた。
「きゃっ……あっ……」
「柔らけぇし、デカいな」
「や、だ……言わないで……」
「触り心地抜群だぜ?」
「あっ、んん……」
 ふにふにと揉んでやると、体の熱を刺激する艶めいた声が零れる。もう抵抗しないんだな、と思って顔を近付けると、なんで、と問われた。
「ん?」
「なんで、こんなことするの……? 女の人、抱きたかったら、娼婦のお姉さんに頼めばいいのに……」
 ヒナナの表情は、困惑と悲しみと快感でぐちゃぐちゃだった。どうすればいいのか分からない、という顔だ。そこで俺は、やっぱりちゃんと言わなきゃなと改めて感じた。
「女を抱きたいから押し倒したんじゃない……お前が……ヒナナが好きだから、気持ちが止まらなくて、こうした」
「へっ……? わたしが、好き…?」
 俺の告白に、ヒナナは目を丸くする。何度か瞬きをし、それからしっかりと言葉の意味を理解したようで、頬を真っ赤に染めた。
「え、え、エスティニアンが、わたしを……?」
「ああ……好きだ、ヒナナ。俺のモノになれよ」
 愛おしさを込めて、桃色の瞳を見つめて伝える。あいつは戸惑いの色を濃くし、唇をぱくぱくさせてから、ゆっくりと頷いた。
「わたしで良ければ……エスティニアンの彼女にして……?」
 男の征服欲を刺激するような言い方に、俺の理性はヒビが入る。これで両思いだな、とだけつぶやき、あいつの唇を奪った。
 柔らかくい感触が、唇を通って伝わってくる。あいつの体温は俺の心を温め、より愛おしいと思わせた。
「ヒナナ……優しくしてやるから、抱かせろ」
「い、痛くしたら、みんなに言うからね」
「恥ずかしくて言えねーくせに」
 ヒナナの言葉にくすりと笑い、俺は言い返す。あいつは不服そうに頬を膨らませたが、すぐに笑顔になって、俺に甘い視線を向けた。
「エスティニアンは優しいから大丈夫って、信じてるよ」
「ああ……お前だけは特別だ」
 再度唇を重ねて、互いの舌を絡め合う。まるで菓子のように甘いひと時を、俺達は紡ぎ、味わった。