起床時間より早めに目が覚める。私やイヴはそもそも機械生命体であり、この方舟ではデータであるが故に、決められた起床時間より早く覚醒することはあり得ないことなのだが、身体が人間に近付いているのだろうか。私はその日、覚醒が早かった。
隣に視線を向けると、すやすやと寝息を立てているイヴが見えた。安定した睡眠の中にいるようで、穏やかな表情だ。可愛らしいと思って、頭を撫でた。ん……と、短い声が聞こえる。愛おしい気持ちが、胸に溢れる。抱き締めたい、と思ったが、イヴを起こしてしまいそうなので我慢した。
きょうだい、であるのにこうして『愛している』と思うのはエラーなのではないか、と時々思う。しかしお互いに気持ちは止まらないし、イヴも私の思いを受け止めてくれているので、気にしないようにしている。人間の男女のように子を持つことはできないが、『好き』という気持ちを互いに受け取り、愛を育んでいくのはとても幸福だ。誰にも邪魔されないこの方舟で、イヴと静かに暮らせることは、至上の幸せだった。
触れたいという気持ちを我慢出来ずに頬に口付けを落とすと、びくっと体が動いた。
「ん……にいちゃん、だめ……そんな、むり……」
どこかいかがわしい雰囲気がする台詞が聞こえてくる。一体どんな夢を見ているんだと思い、体が熱くなった。
「イヴ……?」
確かに昨夜は少々無理をさせてしまったかもしれない。だが、それを夢に見るとは……。私の腕の中で可愛らしく啼いていたイヴを思い出し、良からぬ衝動に襲われる。
「にいちゃ……そんなに、たべれない……」
愛しい弟の口から零れた続きの言葉に、私は唖然とした。どうやら、許容量以上に私に食べさせられているらしい。ややこしい夢を見ているものだ……。内容がいかがわしいものではなくて良かったと安堵しつつ、自分の中の衝動が収まらないことに気付いた。これはもう、起こすしかない。
「イヴ……」
目覚めさせるように、唇に口付けを与え、呼吸を塞ぐ。舌を絡め、弄べば、目覚めたようで、甘い声が聞こえてくる。
「っ! ……んっ、ふぅ……」
口付けながら馬乗りになり、顔の傍に両手をついて、唇を離した。イヴは戸惑った表情で、私を見つめている。ぞくぞくと刺激が駆け巡り、完全にスイッチが入ってしまった。
「にいちゃん……? なん、で……?」
寝起きに恋人から求められれば当然の反応だ。乱れた呼吸を整えながら、行動の理由を問うてきた。私もイヴも機械生命体であるのに、『欲望』と『感情』がある。相手を愛おしいと思う感情と、愛し愛されたいという欲望が。私達はやはり、人間に近付いているのかもしれない。新しい、『人間』に。
それはさておき、欲望を止めることができない私は、困っているイヴに微笑んだ。
「お前が可愛い寝言を言っていたから、イヴを愛したくなったんだ……駄目かい?」
ハッとして、頬を朱に染める。少し目を逸らして考えてから、おずおずと頷いた。
「いいよ……来て、にいちゃん」
恥ずかしそうに笑って、私の頬に口付ける。承諾を得られた私は、イヴの頬にキスを返した。
「たくさん愛してあげるよ、イヴ」