かくれんぼ。それは誰か一人が鬼となり、他の者を探す遊び。鬼以外の者は一定時間内に物陰等に隠れ、見つかったら負けとなる。
それは、人間の子どもたちが楽しんでいた遊び。隠れること、探すことに知識を使い、早く見つかってしまえば、次は見つからないようにしようとさらに知恵を絞る。その繰り返しで成長していく――
僕は、かくれんぼが好きだ。探してる時は、にいちゃんが僕のことだけ考えてくれるから。にいちゃんを独り占め出来ているようで嬉しかった。だって、いつもは『ヒトに近づくこと』ばかり考えているから。
初めは、探してくれることが嬉しくて、隠れている間も楽しい気持ちだったけど、最近は遊びが終わることが怖いと感じてしまっている。一日中、にいちゃんは遊んでくれるわけじゃない。比較すれば、本を読んだり、アンドロイド達を観察したり、目的のために動いている時間の方が多い。だから、かくれんぼが終わることが怖かった。この時間が終われば、にいちゃんはまた僕を見てくれなくなる、と思って。
嫌だ。いやだ。もっとにいちゃんを独り占めしたい。僕のことだけずっと考えててほしい。
モヤモヤとした気持ちが競り上がってきて、胸が苦しくなる。機械に『心』はないはずなのに、人間みたいになる。
ずっとにいちゃんと遊んでいたい。けれどそれは、にいちゃんの願いを邪魔することになる。それはそれで嫌だ。
僕は悩んで、苦しんで、目から雫を零した。零れ落ちる液体は止まらなくて、嗚咽も漏れる。
すると、心配そうな声が上から振ってきた。
「イヴ……? 泣いているのか? どうしたんだ?」
見上げれば、そこにはにいちゃんがいた。積み重なった瓦礫の裏に隠れ、座っていた僕は、案じるようにこちらを見つめるにいちゃんに安堵を覚えて抱きついた。
「にいちゃん、にいちゃん……!」
僕がひとりぼっちだから泣いていた、と解釈したらしく、優しく包み込んでくれる。背中を摩り、大丈夫だと言ってくれた。けれどそれは、『泣いている子どもにはそうすると良い』って本に書いてあったからだ。にいちゃんは、ヒトの模倣をしてるだけで、本当に僕を心配してるからそうしてるんじゃない。知ってるよ、にいちゃんには、僕と同じ『心』はないってこと。
真実は残酷でも、僕は嬉しかった。にいちゃんが、僕だけを見てくれていることが。
「見つけたよ、イヴ」
ふと、昔のことを思い出していると、にいちゃんが声を掛けてきた。少し入り組んだ図書室の奥の方なら見つからないと考えたのだけれど、そんなことはなかった。
「にいちゃんはやっぱ見つけるのが上手だな」
「今は、お前のことをきちんと理解しているから……分かるんだ、イヴの考えることが」
ふんわりとにいちゃんは微笑む。温かくて、綺麗で、大好きな顔。僕の胸の奥は熱くなって、部分的に温度が急上昇しているとエラーが表示される。それを無視して、にいちゃんの言っていることを噛み締めた。
前と違って、にいちゃんは僕をよく見て、話をよく聞いてくれるようになった。だから、僕のことがわかるようになったって……にいちゃんの口から今の状態を聞いて、すごく嬉しかった。僕と同じ心を持って、愛してくれている。
「へへっ……にいちゃん」
「なんだい?」
「大好き」
そう言って、僕は頬に口付けをする。にいちゃんは驚いて、ちょっとだけ赤くなってから、短く笑った。
「不意打ちはずるいぞ、イヴ。それに……キスはここにするんだよ」
優しい笑みは意地悪なものに変わって、にいちゃんの唇が僕のそれに触れる。そのまま深く、長く口付けをされて、胸の奥の熱は、余計に酷くなってしまった。