グリダニアやイシュガルドとは全く違う、まるで太陽であることを誇るかのように照りつける日の光。それを浴びながら、ラザハンの民族衣装に身を包んだヒナナは、アイメリクとともにメリードズメイハネでラッシーを味わっていた。
「おいしいでしょう? ここのラッシー」
「ああ、この『ラッシー』というもの自体初めて飲んだが、暑さに沁みるおいしさがあるね。ラザハンの民が、これで涼を得ているのもわかるよ」
感想を求められたアイメリクは、うんうん、と頷きながら答える。相変わらず真面目な回答だなぁと思いながら、ヒナナはもう一口飲んだ。材料であるヨーグルトやレモン果汁の酸味が爽やかさを連れてくる。
ふと、視線を感じるなと察してその方向を見ると、アイメリクが嬉しそうに彼女を見ていた。
「な、なんか付いてる?」
「いや、その土地の民族衣装を着た君も、美しいなと思って、見惚れていたんだ」
「ふえっ!?」
歯が浮くような台詞をさらりと言う彼に驚き、ヒナナは変な声が出てしまう。頬を赤くして、どぎまぎしている彼女を見て、アイメリクは笑った。
「君は付き合い始めた当初からずっと、変わらず初心だね。可愛いよ」
優しい笑みを浮かべたまま、コップを持つヒナナの手に触れる。そのまま彼女の瞳を真っ直ぐに見つめると、頬の赤は強くなった。
「あ、アイメリクさん……一旦視線逸らして、恥ずかしい……」
恋人を見ることが出来ず、自分の膝を見るように視線を落としているヒナナを愛らしいと思いつつ、アイメリクは視線を外に向け、手を離したた。
「今は君を見ていないよ」
言われて、ヒナナは顔を上げる。アイメリクが外の景色を見ていることを確認すると、ありがとう、と礼を言った。
「見つめられて、触れられるとドキドキしちゃって……ごめんなさい」
礼とともに謝罪する彼女に、アイメリクは首を横に振る。
「ヒナナが謝ることは何もない。刺激が強いことに慣れない君のことを考えられず、異国の地に浮かれていた私が悪い。こちらこそ申し訳ない」
「アイメリクさん……」
彼は、ヒナナと視線を合わせないように、景色から自分のコップに見つめる先を移して語った。どこまでも優しい気遣いに、とても愛されていると感じた。
「あなたは心の底から優しい人ね……好きよ、そういうところ」
ヒナナは自然と想いを伝える。アイメリクはハッとして彼女を見て、慌てて視線をコップに戻そうとした。
「あ、もう、大丈夫。わたしを見ても、平気だから」
「そう、か……いや、まさか、君から何気なく、『好き』だと言われるとは思わなかったから、驚いてしまった。嬉しいよ」
ヒナナを見つめて、にっこりと微笑む。彼女も笑みを返し、いつもたくさん、好きって言ってもらっているから、と言った。
「たまには、その、わたしからも『アイメリクさんのこういうところが好き』って伝えられたらなって思ってたから……良いタイミングかなって」
「君の口から聞くことが出来て、幸せだと感じるよ。これからもこうして、互いの好きなところを話し合える関係でありたいね」
「ふふっ、そうね」
そう言ってヒナナはラッシーを飲む。涼しげな味は、恋の熱に火照りそうな体にも冷たさを与えてくれた。
二人がラザハンを訪れているのは、太守であるヴリトラに招待されたからであった。
国を救った英雄でもあるヒナナに、観光してもらいたい。ヒナナに恋人がいるのなら、相手も是非一緒に――そんな手紙をもらったヒナナは、アイメリクを連れてラザハンにやって来た。互いに民族衣装を身に纏い、名産品や文化に親しみ、アーテリスのために奔走していた時は経験出来なかった充実した時間を過ごした。まるで新婚旅行のように、ラザハン内の色々な土地を見て周り、三泊四日という日程は、あっという間に過ぎようとしていた。
そんな三日目の夜。アイメリクは寝泊まりする場所としてヴリトラから与えられている王宮の一室のテラスで、ヒナナと星を見ていた。夜空にはイシュガルドとは異なる星々が輝き、空は見る場所で異なるのだと、世界の広さを感じた。彼の隣で、ヒナナは嬉しそうに輝く星空を見ている。アイメリクは可憐な彼女を見つめ、心の中で決心した。
「ヒナナ」
「なぁに?」
ヒナナが視線を向けると、アイメリクは真剣な表情をしていた。その顔に、彼女も緊張する。何か重大なことを言葉にしようとしている雰囲気が感じられた。
「君に、伝えたいことがある」
「う、うん……」
「イシュガルドはまだ復興と未来への歩みを続ける最中だが、星は君の手によって救われた。今、この時が良い機会だと思うんだ」
「はい……」
「ヒナナ……」
アイメリクは長々と前置きし、彼女の手を取る。触れた熱にヒナナはドキっとした。
「私と、結婚してくれないだろうか」
「けっ……こん!?」
もしかしたらプロポーズされるのではないだろうかと思っていたヒナナだったが、いざ告げられると声が上ずってしまう。手を握られたまま、左右に目を泳がせ、えっと、あの、その……と繰り返した。
「わ、わたしで、良ければ……ただの冒険者であるわたしが、国の上に立つあなたに相応しいか不安だけれど、結婚しても冒険者稼業は続けるけれど……わたしも、アイメリクさんと家族になりたい」
まとまらない言葉をなんとかまとめて、自分の思いを返す。彼女の『家族になりたい』という言葉に、アイメリクは感銘を受けた。
ヒナナを抱き締めて、間近で見つめる。ドキドキ、という彼女の心音が感じられ、アイメリク自身の心音も高鳴った。
「ありがとう、ヒナナ。私の思いを受け入れてくれて……君はわたしが心に決めた恋人なのだから結婚相手にも相応しいし、私があまり国外に出られない分、冒険をして世界を見てきて欲しい」
彼女が心配していた部分もフォローして、優しく微笑む。そのまま唇を重ね、愛を注いだ。
「んっ……ふっ……」
舌をそっと絡め、快感を与える。ヒナナはぎゅっとアイメリクの服を握り、甘い声を零した。
「アイメリク、さん……」
口付けから解放すれば、彼女は潤んだ瞳でアイメリクを見つめる。視線の先にいる彼は、体の奥で火が灯された熱を感じながら、愛しい人を捉えた。
「愛しているよ、ヒナナ。これからもずっと」
「わたしも、大好き……」
恋のシロップに溺れそうになっているヒナナの耳に唇で触れて、アイメリクはそっと囁く。
「君が欲しい」
「ふえっ……?」
「いい、かな?」
ふんわりと微笑んで、小首を傾げる様子は、ヒナナの心にときめきをもたらした。
「……うん」
同意を得たアイメリクは、彼女の手を引いてベッドに向かう。異国の地で誓いを立てた二人は、めくるめく甘美な闇夜に沈んでいった。