ホラーとポップさが融合した怪しげな屋敷。そこでアイメリクはソファに座って彼女を待っていた。腰掛けているソファも屋敷と同じおどろおどろしさと明るさが混じっているよく分からない装飾で、イシュガルドでは絶対にお目に掛からない雰囲気にアイメリクは複雑な気持ちでいた。
「……ここで待っていて欲しいと言われたが、あの人はどこに行ったのだろう」
光の戦士、と周囲に呼ばれる英雄に誘われ、初めて参加した守護天節。魔物達のお祭りだと彼女から簡単に説明を受け、グリダニアからこの屋敷に移動してきた。相変わらず、面白いところだわ、と笑顔で語る英雄とは別に、アイメリクは今まで見たことない景色に衝撃を受けていた。国が違えば文化も違うのは当たり前だが、エオルゼアにはこんな不思議な祭りと場所があるのか、と驚いた。帰ったらルキア達に絶対に話そうと心に決めた。
アイメリクと英雄はともに屋敷を歩いていたが、ある部屋に着いたところで、彼は一人残されてしまった。ちょっと楽しいことが起こるから、ここで待っていてと言われて。
それから数分が経った。たった数分だが、慣れない場所に居るためか、長い時間が経った気がする。もしかして、彼女に何かあったのでは……。アイメリクがそう思い始めた時、英雄の声が聞こえた。
「おまたせ、アイメリクさん」
「ああ、戻ってきたか。何かあったのかと心配し…………っっ!?」
聞こえてきた声に安堵し、そちらを振り向いたアイメリクだったが、目に写ったものにひどく驚いた。
「な……どういうことだ!?」
声は確かに英雄のものだったのに、そこにいたのは自分だった。自分と瓜二つの男が、笑顔で手を降っていた。アイメイクはその状況に混乱し、狼狽えた。
「お前は誰だ。彼女をどうした!?」
正面にいる人物を警戒し、身構える。それを見て、瓜二つの男は苦笑いし、わたしよ、魔法で化けているの、と説明した。
「わたし……? もしかして、英雄殿なのか?」
「そうよ。ここにはね、自分が出会った人物に変身させてくれる魔物がいるの。その子の魔法で、あなたに化けているのよ」
「ははっ……そうなのか……」
事実を知り、警戒してしまった自分が馬鹿らしくなる。姿は違えど、自分の前にいるのは、愛しい英雄だった。
アイメリクは彼女に近付き、顔や髪の毛や体を見る。骨格や目の色、髪の質や色。全て自分が知る自分そのものだった。ここまで再現出来るとは、その魔物は高い魔力を持っているのだろうとアイメリクは察する。一方で英雄は、好きな人にじろじろと観察され、ドキドキしてしまった。
「あ、アイメリクさん……? あまり見られると、その……」
自分と瓜二つの存在が、女性らしい仕草でそわそわする。中身が英雄だからしょうがないのだが、アイメリクはつい吹き出してしまった。
「声や行動は英雄殿なのに、見た目は私だと面白いな。これが守護天節の楽しいことなのかい?」
「そうよ。恥ずかしい気持ちになるのは想定外だったけど……アイメリクさんも誰かに変身してみる?」
悪戯に誘う子供ののように、彼女は言う。少し興味はあったが、自分以外の誰かになるのはどこか抵抗があった為、断った。
「いいや、私は遠慮しておくよ。中身が英雄殿の自分、という面白いものが見れたからね」
「そう? 変身するの、楽しいけどなぁ」
「確かに、自分じゃないものになるのは楽しいかもしれない。けれど、私が私でなくなってしまいそうで、君が君でなくなってしまいそうで、あまり望ましいことではないと感じる部分もあってね……」
「アイメリクさん……」
寂しそうな声が溢れ、英雄は魔法を解いた。いつもの姿が現れる。
「すまない、嫌な気持ちにさせてしまって」
「ううん、そんなことないわ。アイメリクさんの言う事は正しいもの。誰かになるってことは、自分から逃げてるってことにもなるものね。変身するのは悪いことじゃないけど、ちゃんと考えて行動しなきゃなって思ったの」
アイメリクの思うことを汲み取り、英雄は話す。その表情は真剣であり、穏やかであり、彼女の真っ直ぐさが溢れていた。
しっかりと相手のことを理解しようとするその温かさを、アイメリクは嬉しく思う。彼女を愛して良かったと感じた。
「君は本当に優しい人だな。ありがとう」
そう言って、アイメリクは屈んで英雄の頭を撫でる。彼よりも背の低い英雄は頬を赤らめ、誰かが見てたらどうするの、と怒った。
「私に変身した冒険者と君が戯れてるだけだと、誰も気に留めないだろう。だから……」
アイメリクはさらに屈んで、英雄の耳に唇を近付ける。彼女の耳元で続きを紡ぐと、英雄は嬉しさと恥ずかしさを混ぜ合わせた表情で小さく文句を言った。